毎年此の時期は本當につらくなる。
漆拾伍年も前の、とほく離れた土地の、何の縁故も無い刻と處なのにも拘らず、だ。
おまへがつらくなるのはお門違ひ、と揶揄されるやも、叱責されるやも知れない。確かにさうだ。
けれども僕は全く他人事とは思へない。
たくさんの體驗記、寫眞、記録を讀み漁り、毎年情報が新しくなるテレヴイヂヨン特番の録画を観る。
祖父は先の大戰に参戰してゐたやうだが、幼い頃に體驗談を訊き出すことはしなかツた。悔ひてゐる。
原民喜 『原爆小景』の「水ヲ下サイ」
此れを小學生の頃におしへられたのは大きい。
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僕は銃器や戰車や軍隊や其れに附随する研究などが好きだが、戰争はきらひだ。
特に原子爆弾は一等きらひだ。
戰争をやりたい奴が荒野にて一挺の銃剣のみで戰ツてカチマケを決めて慾しいと、いつでも思ツてゐる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許してください」
と、何度も十字を切りながら投下釦を押す。
コンナことを背負はせるな。
みんな、天國へ行ツて、ゆツくりとやすらかに傷を癒してゐると信ぢる。

毬子